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陰陽連絡の路・伯備線

山陽新幹線開業から、米子方面への旅客輸送強化で電化までされた伯備線ですが、中国山地を縫って走る芸備線や、陰陽連絡でも新幹線との接続の悪い木次線、更には出雲市から西の山陰本線までが廃線を取り沙汰されています。

石炭を焚べるために焚口扉を開けた瞬間、D51のキャブの中は炎が放つ赤い光に満たされます。陰陽連絡は中国山地の坂との戦いでした。 一口に石炭を焚べると言ってもD51型は石炭の積載量は10トン以上あります。一回に3キロずつ掬って投げ込んでも、回数は3000回を超えます。しかも投込みは3平方メートルの広い範囲を均等に、石炭の薄い所を狙って投げ込みましたから、まさに職人技です。揺れるキャブとテンダーのに間の渡り板を足場に、石炭をたき続けた機関助士の苦労が偲ばれます。

 

線路の両脇に交換用のレールが置かれた勾配区間で力闘するD51。10‰勾配では1000トンを引く能力のあるD51ですが、伯備線の最急勾配である25‰の登りでは、350トンしか引く事は出来ませんでした。ゆっくりと踏みしめるように進むD51の排気音が山間に轟いて、貨物列車は新見へ倉敷へと向かうのでした。 線路のレールは上り勾配では撒き砂で擦り減り、下りではブレーキで削られ、重い機関車が通るたびにたわみ、更に伯備線は最少曲線半径が200メートルの営業線区としては急な曲線でしたから、線路を維持する保線区の方々の苦労も、たいへんなものだったろうと想像されます。

線路を落石から守るための落石防護覆いが、伯備線の自然環境の険しさを伝えます。これだけの山間を縫ってでも、山陰と山陽を結ばなければならなかった伯備線建設。地域間を結ぶ必要性は地域の便利性を高める目的ですが、逆に言えば、生き生きとした地域が多々あった時代が伯備線を生み出したのです。

山間を走り、日本海に注ぐ日野川の支流、石見川を鉄橋で渡って高度を稼ぐD51。 山深い南石霞渓谷に巨岩が転がり、伯備線の自然環境が垣間見えます。やがて列車は分水嶺を越えると、瀬戸内海へと流れる高梁川沿いに渓谷を下って倉敷へと向かうのでした。 山陰と山陽をつなぐ鉄道路線は、石灰石を運ぶ貨物量の多い美祢線伯備線が主要なルートでした。蒸気機関車時代から乗客の多かった伯備線は、倉敷から米子を結ぶことで現在の廃線の危機からかろうじて逃れています。  先人が苦労して築いてきた鉄路を、赤字路線の一言で切り捨てる発想は、地方の過疎地は過疎のまま滅びろと言うに等しく、そのまま日本列島のバランスの良い発展の可能性を閉ざしているように思います。

渓谷に沿った山間の曲がりくねった鉄路を進むD51。 過疎地を切捨て首都圏と大都市だけを重視した政策は、予想される関東震災や南海トラフ地震に対して脆弱なだけでなく、首都圏の住人を、核武装した覇権主義国家に対して人質として差し出しているに等しいのです。 そして、いったん被災した大都市から、避難民を受け入れ、更に支援を送れるような強い地方の再生を考えるとき、輸送についてエネルギー効率の良い鉄道の廃止など、有り得る話ではありません。化石燃料から、保存の難しい電気へとエネルギーをシフトするのであれば、明治時代からの歴史がある電気鉄道によった貨物輸送こそが未来戦略です。

貨車を連ねて勾配に挑むD51。 種々雑多な貨車が組み合わされた貨物列車は、地域が生きた活動をしていた証です。 東日本大震災の被災地では、ガソリンと軽油が枯渇して、徹夜で給油所に並んでも手に入リませんでした。東日本大震災の被災者は20万人でしたが、首都圏震災や南海トラフともなれば、被災者の数は東日本大震災の百倍を超えるでしょう。近々に震災のリスクが語られている 今こそ、待ったなしで地方を再生し、大都市集中を是正する事が、日本の国民を救う唯一の方策なのです。

スチームと煙にまみれて力闘するD51。無煙化でD51がディーゼル機関車に任を譲った先には明るい未来が開けるはずでした。

 地方には、まだまだ利用可能な土地が広がり、地域で食糧やエネルギーを自給する事も可能です。継続可能性を問うた場合、地方分散は必須なのに芸備線木次線廃線問題が議論されるとは、何たる近視眼だろうと感じます。 北朝鮮のミサイル発射台は500基以上あり、60発のミサイルを同時に発射可能だと言われています。ミサイル防衛システムは同時に多数の飛来があった場合には、必ず打ち漏らす事が分かっていながら、厚木や横田、横須賀にアメリカ軍の基地がある首都圏に国民を集中させている危険度は計り知れません。 

伯備線を走り抜き、消えて行ったD51。もしD51に心があれば、どうしてこうなった?と首を傾げていることでしょう。

 撮影・写真提供 加藤 潤 横浜市