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夜の機関区・北見

網走本線と石北本線の機関車が出入りする北見機関区、蒸気機関車の機関区は不夜城でした。

 蒸気機関車は、ボイラーから発生するスチームを使って走りますから、常にボイラーを燃焼させていなくてはなりません。朝の1番列車を動かすにも、セルモーターを回してエンジンをかけるようにはいきませんから、夜通し石炭を燃やしていたのでした。

 夜行列車が通ることも無い、静かな地方の機関区でも、朝を待つ蒸気機関車が穏やかに煙を上げていました。まさに蒸気機関車は、体温を持つ機械だったのです。

静かに煙を上げるC58の奥には、発電機からスチームを吐き出す9600が見えます。機関車の発電機は蒸気機関車自体の電装を賄うだけで、客車や車掌車は、車軸の回転からベルトやギアで駆動する発電機を装備しており、停車中は車載のバッテリーを使用していました。

 蒸気機関車のボイラーは後方のキャブから石炭を焚べ、機関車前方の煙突から煙を吐き出す横型ボイラーで、ボイラー内に石炭の燃焼ガスを通す煙管と呼ばれるパイプの長さは5メートル程ありました。直立した煙突の効果で煙管から煙を吸い出そうとすれば、理論的に煙突の高さは10メートル以上必要になります。そこで蒸気機関車では煙突の下部からスチームを噴出させて煙管内の燃焼ガスを強制的に吸い出すことで、良好な燃焼を維持していました。

 機関区では、機関車が到着すれば、火室の下部に取付られた灰箱から石炭ガラを落とし、更に灰箱上部に取付られた火格子から詰まった灰を取り除き、また、機関車前部の丸い煙室扉を開けて、溜まった煤も掻き出します。 煙室からは、ボイラー内を前後に走る煙管を点検し、煤の付着が激しければ、長い棒状の器具で煙管内の煤を取り除きました。 

 排出作業と並行して、水と石炭の積込みを行い、足回りに異常な発熱が無いか?確認すると共に、必要箇所はハンマーを片手に打音検査をします。

 蒸気機関車はスチームと圧縮空気を使って様々な器具を動作させますので、外部に露出した回転部分や動作箇所が多数あり、それらすべてに注油が必要で、潤滑用オイルタンクの他に、小さな油壺も多数取り付けられて、注油は200箇所以上でした。こうした積込みと整備を終えると機関車を駐機場所に移動させて朝を待ちます。

写真の右端に給水用のスポート、機関車のキャブ付近にはラッパ型のスピーカーと、蒸気機関車の機関区には沢山の設備がありました。そして多くの構内員と整備員の手によって、蒸気機関車は維持されていたのです。

 やがて朝が近づくと、機関助士が乗り込み、新たに石炭を焚べて排煙を促すブロワーを吹かし、煙管内のドラフトが効いてきた機関車は、ゴーゴーと燃焼音を発します。煙突からは黒煙が立ち上り、ボイラーの圧力が上がって、ようやく出発準備が整います。 機関士はボイラーの調子を機関助士と打合せた後、点検用のハンマーを持って機関車の足回りを中心に出発前点検を機関士自身で念入りに行うのでした。

 いったん、火を落とした蒸気機関車を走る状態まで準備するには、半日以上の時間がかかりましたから、蒸気機関車の出入りする機関区は不夜城だったのです。

 撮影・写真提供  加藤 潤 横浜市