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石灰石輸送・美祢線

洪水被害で廃線が取り沙汰されている美祢線。かつては瀬戸内沿いの工業地帯へと石灰石を運ぶ、山口県を縦走する幹線でした。

石灰石専用ホッパー貨車を連ねて登り勾配に挑むD51。空車とは言え、20両を超える鉱石専用貨車は重く、D51の排気音が山間に木霊します。鉱山から直接工場へと輸送する重い鉱石専用列車は鉄道が最も得意とする輸送分野でした。

シリンダーから第3動輪のクランクを結ぶメインロッドには満身の力が込められ、メインロッド外側のリターンクランクに取り付けられたエキスパンションリンクは、シリンダーに送るスチームの量をコントロールする加減リンクを大きく動かし、大量のスチームをシリンダーに送ります。D51の勾配線区での活躍は、機関車と機関車の性能を存分に引き出す熟練の機関士、そしてボイラーを最高の状態に保つ機関助士の焚火術に支えられていたのでした。

山陽本線側の終点である厚狭駅や隣接する小野田港や宇部港の工場で石灰石を下ろせば、鉱山へと戻る列車は空貨車を連ねて登り勾配に挑む事になります。逆に鉱山から石灰石を満載したした専用列車を引き坂道を下るD51は登坂とは異なり静かに山を下るのでした。

厚狭川沿いの勾配を美祢までの専用列車を引いて登るD51。厚狭川の橋梁が橋脚がらみ、河川の増水で流された為に、美祢線自体の存続が危ぶまれています。 石灰石輸送がトラックに切り替えられて以来、山口県を縦走すると言っても、乗客の少ない美祢線は赤字路線だからです。 温暖化に対して環境負荷の少ない鉄道が、豪雨災害で被害を受けて廃線とは、何たる皮肉と思います。これから先を見据えた持続可能な輸送体系の構築計画と、地域活性化の取組みにより、美祢線が存続されることを願って止みません。石灰石は文明社会にとって、まだまだ必要でしょうから。

厚狭川の橋梁を渡る石灰石満載の上り貨物列車。川幅が狭く線状降雨帯などの豪雨に対しては脆弱なのが見て取れます。石灰石輸送に使われた貨車は、北海道の石炭輸送に使われたセキもありました。宇部港と小野田港への行き先別に専用列車が仕立てられて、それぞれ使用する貨車も異なりました。この列車はセキ3000と6000の混成ですから、宇部港行きと思われます。

落石防止の擁壁に差し掛かるD51牽引の上り貨物列車。石灰石を積込んだ専用列車は石灰石がまぶされて白くなっています。川と山に挟まれた空間を切り拓いて、鉄路は敷設されています。

夕闇が迫る厚保駅構内で対向列車を待つD51が発車に備えて圧力を上げています。上りの積車の列車は坂を下るとは言え、重い石灰石専用列車を停車状態から引出すのはD51と乗務員にとって大仕事でした。美祢線には石灰石専用列車が上下合わせて20本近く走り、山陰本線長門市行の貨物列車と旅客列車も加わって列車ダイヤは過密状態でした。

小野田港への上り石灰石専用列車。重安駅からは小野田セメントの専用列車が出ていました。D51の次位にワフが連結されていて、小野田港への列車は宇部興産の専用列車と識別出来ました。

 輸送の脱炭素化と地域再生のインフラ整備に向けて、美祢線の活用が検討され、路線が復旧されると良いのですが。

 撮影・写真提供 加藤 潤 横浜市