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世界農業遺産・大崎耕土を行くC58・陸羽東線

優れた水管理も評価されて世界農業遺産となった大崎耕土ですが、線状降水帯による1000ミリの集中豪雨には抗しきれしず、江合川の増水により陸羽東線沿線が、また東北本線沿いでも冠水する地域が出ました。温暖化による河川氾濫への対策が急がれます。

江合川の土手に山と積まれた孟宗竹の山を見ながら進むC58。春にはタケノコの他、タラの芽を初めとした山菜、夏には江合川流域の鮎、紅葉の頃には様々なキノコなど、天然の山の幸にも恵まれた地域です。ワフの後位に飼料用のホッパー車が連結されていますが、陸羽東線沿線は、仙台牛の大産地のひとつです。

朝の通勤、通学客を乗せて小牛田駅へと向かう上り列車。陸羽東線分水嶺付近は、日本有数の温泉湧出地帯であり、湯治客でも賑わいました。汽車旅でノンビリと宿泊し、カラコロと下駄の音がしていた温泉街も、沿線の国道が整備された今は、マイカーでの日帰り温泉利用ばかりが増えているのは、いささか残念です。

回送する機関車を増結して重連になる、C58の有火回送重連列車の連結作業。峠越えに奮闘した機関車は、点検整備の為に機関区に戻りました。周囲はツキノワグマニホンカモシカも生息する里山で、地域の野生動物と人間が共棲する空間です。中山間地域耕作放棄里山の荒廃が、市街地への野生動物の侵出の原因のように言われますが、林業の衰退による森林の荒廃と、温暖化による山の木の実の減少が、ツキノワグマを市街地へと押し出しています。市街に現れた痩せたクマもまた、温暖化による被害を受けているのです。

本務機と前補機の出発汽笛が連続して鼓吹され、重連が出発していきます。2台の機関車が見事に協調して加速する頼もしい光景です。

江合川沿いを走り、幾度か川を渡ってC58は高度を稼ぎ、C58は峠越えに向かいます。河原に山並が迫るのどかな景色ですが、この豊かな自然が、今は、迫りくる温暖化の危険を知らせてくれます。見慣れたヨモギが減って得体の知れない草が生え、盛夏にしか見られなかったオニヤンマが5月から飛んで、住む人間に明らかな変化を伝えてくれます。首都圏震災が夏場に起き、長期に電源が失われたら、冷房の使用が推奨される地域で、生き延びる事が出来ますか? 政府は国民を守るが口癖ですが、猛暑日の長期停電についてすら、具体的な対策は示されていません。草木や昆虫の変化を見ることも無い、空調の効いた空間の中で交わされる議論の中では、簡単に数値化出来るケーザイ、ケーザイ、ケーザイしか頭に浮かばないのかもしれません。

収穫の終わった畑の中を疾駆するC58。大正時代の傑作蒸気機関車であった8620の決定的な後継機種であったC58型は、もともと旅客用として登場して汎用機となった8620同様に、性能的には旅客用に重きを置いた設計でした。太平洋戦争後、アメリカ石油資本の廉価な燃料供給によってキハが普及した事により、活躍は貨物列車中心となりましたが、高性能ボイラーと8620よりも軽い動輪軸重から線路を荒らさない特性を生かし、各地で様々な運用に使われました。

客車列車を従えて颯爽と走るC58。線路際には交換を終えた古枕木が積まれています。軸重14トン以下の丙線にも使えるように軽量化されたC58型でしたが、実際の運用では乙線区で、C57型やD51型と混用もされました。乙線とはいっても、列車単位の小さい編成には、その牽引定数に見合った機関車を使ったほうが、石炭の消費量や線路の消耗が少なく有利だからです。 陸羽東線を管理した小牛田機関区では、東北本線は小牛田↔一関間のD62牽引の貨物列車の後押補機にC58を使用しました。D51だらけの東北本線上でD62牽引の貨物列車を押し上げたC58。こんなところにも蒸気鉄道の面白さを感じます。

世界農業遺産大崎耕土の豊かな田園地帯の中間駅で、側線に待機するC58牽引の貨物列車。ワム70000とワラ1を連ね発車を待ちます。両開き扉を持つ、これらの有蓋車は、フォークリフトを使った機械荷役への過渡期に登場した貨車でした。こうした車扱い貨物には駅の貨物側線が必要で、陸羽東線の沿線の主要な中間駅には、立派な農業倉庫が建ち、時には貯木場すら見られました。

陸羽東線の沿線には、鳴子温泉郷を初めとした観光地もありますが、キャバクラやホストクラブのシャンパンタワーなどとは隔絶した世界が広がります。ハロウィンの仮装してのドンチャン騒ぎも、クリスマスの街を覆う電飾もありません。 ただ今年は夏が暑すぎた為に紅葉は美しくなく、11月になっても青草が見られるように温暖化による自然の変化は見て取れます。自然が急激に狂い始めた今日、自然のそばで日々変化を感じ取れるのは、たいへん有意義だと感じられます。

石油あり、材木あり、米あり林檎あり、魚ありの大混成貨物列車を引き出すC58。

 陸羽東線にC58がいた頃、東北の夏は、朝晩はたいへん涼しく、真夏日になることも稀でした。

 

 撮影・写真提供  加藤 潤 横浜市