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蒸気鉄道の魅力・大畑ループ

峠を越える汽車は前引き後押しで、シュッシュッポッポ、なんだ坂こんな坂。 峠越えが蒸気鉄道の魅力のひとつである事は間違いありません。

 後押しのD51の前に連なる、ワフ、トラ、ワラ?、窓が開けられたワフの中では車掌さんが駅で貨車を入れ換える為の解結指図書を書いているのでしょう。またトラの積荷の材木は何処の産地で、何処へ向かうのでしょうか? 後押しするD51の一葉の写真の中に込められた物語は果てしなく広がります。

混合列車の客車のデッキから鉄の肌に疲れが感じられるD51のテンダーが覗きます。D51の戦時型は粗製乱造がたたり、ボイラーの爆発事故まで起こした車両もありましたが、状態の悪いボイラーを戦後、新缶に積み替えた車両は、蒸気機関車の末期まで鉄路上で活躍したのでした。スイッチバックループ線で峠を越える肥薩線はD51にとって働きがいのある路線であったろうと想像します。

ループ線で峠を越える混合列車。貨車を付け換えながら進む混合列車では、機関車の直後に客車をつながざるを得ませんから、客車は煤で燻されて真黒、ふどう2号の塗色とは思えない黒光りしたスハフでした。車両も乗客も燻され、トンネル進入時には乗客同士が協力して窓を閉める、そんな蒸気鉄道の常識もたいへん魅力的です。やがてトンネルを抜けると窓はいっせいに開け放たれ、爽やかな山の空気が煤けた車内を満たすのでした。

蒸気機関車と共に旅客輸送に活躍した客車も蒸気鉄道の立役者のひとつです。乗客は網棚に荷物を乗せてイスに座ると新聞や文庫本を開いたり、駅弁をつついたり、汽笛やブラスト音、レールのジョイントを刻む音を聞きながら、窓から流れる景色をながめ、ゆったりとした汽車旅の時間が流れるのでした。

列車は山の小駅に停車し、乗客はキレイに手入れされたホームの植木の合間に駅名標を見つけます。なんだ、まだ矢岳かい?やら、もう矢岳まで来た〜、と感慨は様々です。 それがたとえ山中の小駅であっても蒸気鉄道の駅は確かに地域最大の輸送の拠点でした。乗客は言うに及ばす、地域産品の積出しや、必需品の搬入。小荷物扱い、新聞雑誌から郵便物まで、全てが駅に集まり、また駅から地域に届けられていたのでした。

 肥薩線矢岳越えD51は大型の集煙装置や重油タンクを装備したいかめしい出で立ちで人気ですが、重装備の機関車だけでなく、肥薩線は蒸気鉄道の魅力に溢れていたのでした。 動態保存機が走っても鉄道施設や地域のなりわいに直結した輸送機能を鉄道が失なわれている現在、蒸気鉄道の何たるかは写真や物語、そして蒸気鉄道レイアウトでの再現に頼るしかないのです。

 撮影・写真提供  加藤 潤 横浜市